弁護士楾大樹の法律相談室

労働問題

【成果主義的賃金制度の導入について 】
Q. 私は会社を経営しています。従業員の賃金制度は現在は年功序列型ですが、就業規則を
  変更し、業績に応じた成果主義的なものにしたいと思います。問題はないでしょうか。

A. 使用者が、一方的に、就業規則を従業員に不利な内容に変更することは、変更内容が
  合理的なものでない限り、許されません。

  成果主義的賃金制度の導入が従業員に不利益な変更か否かですが、これにより賃金が
  増える従業員もいるかもしれません。

  しかし、複数の下級審判例は「賃金が減少する可能性が生じた」などとして、
  成果主義的賃金制度への変更を従業員に不利益なものと判断しています。
  ですので、まずは従業員の同意を得ることです。

  合理的な変更であれば従業員の同意がなくても構いませんが、一方的に変更すれば、
  合理的でないと考える従業員から変更前の賃金制度に基づく賃金を請求される
  リスクがあります。
  訴訟になれば、会社側が変更の合理性を立証しなければなりません。

  変更内容が合理的か否かについては

  @変更によって労働者が被る不利益の程度
  A変更の必要性、内容、程度
  B変更後の内容自体の相当性
  C代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況
  D労働組合等との交渉の経緯
  E他の労働組合や従業員の対応
  F我が国の一般的状況等

  を、総合的に考慮して判断されます。

  賃金や退職金など労働者にとって重要な事柄については、合理性の有無は厳しく
  判断されます。
  基本給を大幅に引き下げたり、従業員への説得をおろそかにすると、合理性なしと
  されやすくなるでしょう。
  訴訟リスクを減らすためには、まずは従業員が納得するような変更内容とし、
  従業員に説明して理解を求め、同意を得たことを書面に残しておいた方が
  よいでしょう。

【運転手の事故について】(相談者 30代 男性)
Q. 私は運送会社に勤務し、トラックの運転手をしています。先日、運転中に追突事故を
  起こしてしまいました。会社は保険に入っていなかったらしく、会社から修理代を請求
  されていますが、とても払える額ではありません。

A. あなたの落ち度で会社に損害を負わせたのですから、いくらか弁償する義務は
  あります。ただ、全額弁償しなければならないとは限りません。

  というのは、会社は保険に加入することにより事故のリスクを緩和することが
  できますが、従業員はそのようなことができません。
  また、会社が過酷な労働条件で従業員を働かせ、それが一因となって事故が起きる
  ということもあります。
  ミスをしたとは言え、普段の勤務態度は真面目であった従業員に全責任がかかって
  しまったケースもあります。

  以上のようなことからすると、会社が従業員に全損害を負担させるのは公平とは言え
  ません。会社が何割請求できるかについては、従業員の過失の態様、会社の保険加入の
  有無、労働条件、勤務態度などを総合的に考慮して判断することになります。

  裁判例はいくつかありますが、従業員が負担すべき割合を5%や25%などとしています。
  従業員が負担すべき割合は、ごく一部とされています。


Q. 会社からは、支払えないのなら給料から天引きすると言われています。
A. 賃金は全額を支払わなければならないとされており、従業員が同意しない限り、
  このような相殺はできません。
  会社が一方的に給与から天引きするようであれば、給与全額を請求することは可能です。
  もし、この件が原因で解雇されるようなことがあれば、解雇無効や解雇後の給与の支払
  などを求め、本件の問題と合わせて訴訟で解決することもできます。


【職場での私用メールについて】(相談者 50代 男性)
Q. 私は会社で管理職をしています。先日、A社員が会社のパソコンを使い、勤務時間中に
  私的なメールの送受信を繰り返しているということを、ある社員から聞きました。
  調査をしたいと思うのですが、A社員のパソコンを勝手に調べることには問題が
  あるでしょうか。

A. 勤務時間中に私的なメールの送受信をすることは、その間仕事をしていないということ
  ですから、職務専念義務に違反する行為であり、懲戒事由にもあたり得ます。
  ですから、会社として調査を行うのは当然です。

  ただ、従業員にもプライバシーがありますので、興味本位でのぞき見てはいけませんし、
  調査のためなら何をしてもよいというわけではありません。
  とは言え、会社のパソコンですから、プライバシーは一歩後退します。

  調査をする合理的な必要性がある本件のケースでは、無断でメールを調べても違法とは
  言えないと思います。裁判例にも、このような結論をとったものがあります。

  ただ、いきなり無断でメールを調べるよりも、可能であれば、まずはAさんを問いただし、
  メールを消去する暇を与えないようにしたうえで、了解を得てメールを調べる方が
  穏当だと思います。

Q. 私的メールが見つかった場合、どのような処分が可能ですか。
A. ごくたまにしているだけなら、違法とまでは言えないかもしれません。
  しかし、頻繁にやりとりしているような悪質なケースであれば、就業規則上の根拠が
  あれば、何らかの懲戒処分を行うことも可能です。
  どの程度の処分が適当かは、メールの頻度などの悪質さによりますが、いきなり解雇は
  重すぎ、けん責・戒告か、悪質なケースでも10分の1以内の減給くらいが限度かと
  思います。その後も繰り返すようなら、さらに重い処分も可能です。
  再発防止には、就業規則などにメールについての明文を入れることも考えられます。


【退職後の競業行為について】(相談者50代男性)
Q. すでに退職した弊社の従業員が、退職直後に弊社と競合する会社を立ち上げ、弊社の
  引取先に営業をかけ、弊社の顧客を奪っていることがわかりました。弊社の売上は大幅に
  ダウンしています。損害賠償や営業の差し止めなどができないでしょうか。

A. 営業秘密を不正に利用して利益を図り、会社に損害を与えることは許されませんが、反面、退
  職した従業員がどのような仕事をするかは本来自由なはずです。そこで、両者の調整が問題で
  す。
  本件のような事案に関して、今年3月に最高裁判例が出ました。退職後の競合行為について会
  社と従業員との間で特段の契約がなく、従業員が競合行為をすることを計画したうえで退職し、退
  職のあいさつ回りの際に独立後の受注希望を伝えるなどし、顧客を奪ったケースです。
  会社が元従業員に損害賠償請求し、高裁は会社側の請求を認めました。しかし、最高裁は営
  業担当であった従業員が在職中に築いた取引先との人間関係を利用しただけで、会社の営業秘
  密を不正に取得したわけではなく、会社の信用をおとしめるなどの悪質な事情もないという理由
  で、元従業員の競合行為を自由競争の範囲内であるとし、元従業員を勝訴させました。
  もちろん、個々の事案ごとに判断されることですので、悪質な事情が積み重なれば損害賠償請
  求が認められることはあり得ますが、このような最高裁判例が出たため、会社側としては苦しくな
  りました。

Q. 今後、このようなことを防ぐにはどうすればよいでしょうか。
A. 従業員の在職中に、競合行為を禁ずる誓約書を交わしておくとよいでしょう。
  ただ、従業員にも職業選択の自由がありますので、禁ずる範囲が広すぎると、契約が無効とさ
  れかねません。有効性の判断には、@代償措置(対価の支払等)があるか、A期間、場所、職種
  などに一定の限定があるか、B契約の手続が適性であるか等が考慮されます。

【労働条件の食い違い】(相談者 30代 男性)
Q. 求人情報誌を見て応募し、ある会社に採用されました。しかし、給与の額などの労働条件が、
  求人情報誌の内容とかなり違っていました。こんなことがまかりとおるのでしょうか。

A. 職業安定法により、求人募集に際しては、労働条件の明示が義務づけられています。
  ただ、職業安定法では、賃金については現行賃金額を明示する以上のことは求められていませ
  ん。
  そのため、採用後に明示された労働条件が、これと食い違っていたということが起こることがあ
  ります。

Q. 求人広告に書かれていたとおりの給与を請求できませんか。
A. 裁判例では、労働者が求人票の記載どおりの退職金を請求した事案で、「求人票記載の労働
  条件は、特段の事情のない限り、雇用契約の内容となる」と判示し、労働者の請求を認めたもの
  があります。
  しかし、求人票や募集広告の記載が「見込み額」「新卒者と同等の給与」といった表現となって
  おり、金額が明確に書かれていないケースでは、求人票の記載どおりに給与等を支払うように求
  めても、労働者側が敗訴しています。
  ただ、求人票の記載どおりの額を請求できないケースでも、慰謝料請求が可能な場合がありま
  す。求人広告の表現や採用面接の際の話で応募者に期待をもたせておきながら、採用後にはそ
  れと大きく異なる労働条件で雇用したような場合です。慰謝料の額はケースによりますが、裁判
  例には、100万円の慰謝料を認めたものがあります。

Q. これからどうしたらよいでしょうか。
A. 会社から何らかの説明があればよいですが、金銭的な請求に素直に応じる会社は少ないと思
  います。
  労働基準監督署に相談する方法はありますが、在職中に裁判沙汰にまでされる方は多くないと
  思われますので、表面化しづらい問題です。退職後に法的措置をとる方法は考えられます。


【時間外労働について】(相談者 50代 経営者)
Q. 時間外労働のさせ方について教えて下さい。
A. 時間外労働とは、「法定労働時間」すなわち週40時間または1日8時間を超えて労働
  させることをいいます(週44時間とされる業種業態もあります)。
   時間外労働をさせることは原則として禁じられ、違反には刑事罰が定められています。
   ただ、労働基準法36条に基づく、いわゆる「36協定」を労使間で結び、労基署に
  届出をすれば、時間外労働をさせることができます。

Q. 36協定を結んでいれば、「早く帰りたい」という従業員にも時間外労働を命じてよい
  のでしょうか。

A. はい。就業規則や36協定に、時間外労働に関する合理的な定めがあれば、業務上必要
  な時間外労働を命じることができるという最高裁判例があります。
  ただ、無制限に命じることはできず、「1週間で15時間以内」とか「1か月で45時間
  以内」などといった制限があります。
  また、出産、育児中の労働者や、年少者については制約があります。
  平成22年に改正法が施行された育児・介護休業法では、3歳未満の子を養育している労働
  ついては、1日の勤務時間を6時間とし、希望があれば所定外労働を免除することが義務
  づけられました。

Q. 時間外手当の算定方法を教えて下さい。
A. 法定労働時間を超える部分について、割増賃金が発生します。
  割増率は、単なる時間外労働なら25%、法定休日(週1回)なら35%、時間外かつ深夜
  なら50%、休日かつ深夜なら60%、時間外労働が月60時間を超えれば50%となります。
   算定の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当、住宅手当などの手当や、臨時に支払
  われた賃金などは含まれません(ただし、名称ではなく実質で判断)。
   もし訴訟になれば、時間外手当の他にも、「付加金」という制裁金や、年6%の遅延
  損害金も請求されます。時間外労働の管理をきちんとしておきましょう。
   なお、時間外手当の請求権は、発生から2年で時効消滅します。

Copyright (C) hiroshima-simin-hourituzimusyo All Rights Reserved 2011