弁護士楾大樹の法律相談室

債権回収

【債権回収について】(相談者50代 男性)
Q. 当社はA社に対し50万円の売掛債権がありますが、A社は資金繰りに困っているらしく期限ま
  でに払いません。どのように回収すればよいでしょうか。

A. もしA社が倒産すると回収困難となります。そうならないうちに、早く手を打つべきです。
  交渉による回収が難しい場合の法的措置としては、@支払督促、A少額訴訟、B通常訴訟が
 考えられます。
 @支払督促は、金銭の請求について簡易裁判所に申立を行い、債務者が異議を出さなければ、
 すぐに裁判所が支払を命ずるという、簡易迅速な手続です。裁判所が用意している申立書のひな
 形に、当事者や金額などを書き込めばよく、弁護士に依頼する必要はありません。ただ、支払督促
 の申立に対して債務者が異議を出せば訴訟に移行します。債務者の異議には、支払義務を争う
 ものの他、支払義務があることを認めつつ支払い方法について話し合いをしたいというものがあり
 得ます。
 A少額訴訟は、60万円以下の金銭の請求についての簡裁での手続です。原則として1回の期日
 で審理を行い、すぐ判決を下します。これも弁護士に依頼せず自分ですることが可能です。
  もし支払督促の申立をすると、A社は支払方法について話し合いたいという異議を出し、通常訴
 訟に移行して、手続に時間がかかるかもしれません。少額訴訟の方が、期日で話し合いができ、
 場合によっては分割払いを命ずる判決も可能ですので、手続が早く終わるかもしれません。
  支払義務の存否について深刻な対立があるようなケースではB通常訴訟を選ぶべきでしょう。
  いずれにしても、裁判所に申立を行えば、驚いて優先的に払ってくれるかもしれません。とりあ
 えず裁判所に申立をしてから、裁判外でA社と話し合いを進めるのも一つのやり方です。
  判決が出ても払わないときは、A社の財産に差押えをすることができます。差し押さえるべき財
 産が見あたらなければ、回収は困難です。

【消滅時効について】
Q. 12年前、友人のY氏に100万円貸しました。借用証はありますが、返済期限は定めていませ
 ん。返してもらえますか。

A. 時効で請求できないのではないかが問題です。 時効期間は、本件では民法により10年となり
 ます。
  この10年の期間がいつからスタートするかが問題です。
  これについては、返済期限を定めていれば、返済期限の時からとなります。
  返済期限を定めなかった場合は、貸付をして相当期間(数日から数週間くらいでしょう)経過した
 時からとなります。
  本件では、返済期限を定めていないということですので、貸付時から10年で時効となります。

Q. 貸付時から12年経っていますので、あきらめるしかないということでしょうか。
A. 途中で時効が中断していれば、中断した時点から改めて10年経過したかが問題となります。
  民法の定める時効中断事由は@請求、A差押え、仮差押え、仮処分、B債務の承認、の3つ
 です。
  これらの事情があれば、その時点から新たに10年の期間が経過しないと時効になりません。

Q. 今まで、何度もY氏に督促状を送り続けてきました。これは@請求にあたりますね。
A. 残念ながら、ここに言う請求とは、訴訟提起など裁判所を通じたものを指し、督促状を送り続け
 ただけでは時効はストップできません。

Q. 督促状を送ったら、Y氏は「いつか払うから、もう少し待ってほしい」と言っていました。
A. そのような支払猶予の要請はB債務の承認にあたります。 ただ、Y氏がそのように言ったこと
 を証明しなければなりません。Y氏が発言を認めれば別ですが、そうでなければ、録音などがない
 限り立証は難しいでしょう。

Q. では、あきらめるしかないのでしょうか。

A. それはまだ早いです。10年経てば直ちに権利が消えるのではなく、10年経った後でY氏が
 「時効の援用(時効だから払わないという意思表示)」をしてはじめて権利が消滅します。
  もう一度Y氏に督促し、一部だけでも払ってくれたり、「いつか払うから、もう少し待ってくれ」など
 という発言をしてくれたりすれば、Y氏は時効の援用ができなくなり、全額請求できるようになりま
 す。今度Y氏と話すときは会話を録音しておきましょう。

【時効期間の様々】
Q. 債権の種類によって、時効となる期間が異なると聞きました。どのような債権が何年で時効に
 なるのか、教えてください。

A. 【民法上の原則は10年】
  債権(特定の人に「お金を払え」などと請求する権利)は、支払期限から10年間放っておくと時
 効で消滅します。
  ただ、この原則には、以下のような例外があります。
 【5年】
  当事者の一方が「商人(会社など)」であれば、商法により、時効期間は5年となります。
  銀行や消費者金融の貸金債権はこれにあたります。消費者金融からの借金を滞納し、裁判も
 起こされずに5年以上経過している方は時々おられますが、「時効だから払わない」という手紙を
 送れば解決します。
 【3年】
  請負工事代金債権は、工事終了から3年で時効です。
  不法行為に基づく損害賠償請求権は、「損害及び加害者を知った時から3年」で時効となりま
  す。事故や、違法な行為によって損害を被った場合です。
  不貞行為も不法行為ですので、浮気相手に対する慰謝料請求権は、加害者=浮気相手を知っ
 た時から3年で時効です。ただ、夫婦間では、婚姻中には時効は進行しないため、浮気から長期
 間経過した後に離婚する場合も、浮気の慰謝料を請求できます。
 【2年】
  @生産者・卸売商・小売商の商品売掛債権、A職人等が技能を用いて仕事をした場合、B塾
 や習い事の代金、などです。
 【1年】
  @運送賃(運送業者など)、Aホテルなどの宿泊料、B飲食店の飲食代、などです。
 【労働者の権利】
  給料は2年で時効です。残業代も2年です。残業代請求権が日々時効で消え続けている労働
 者はかなりおられると思います。
  退職金は5年です。
  労災給付については、給付内容により、2年のものと5年のものがあります。
 【判決を取ると】
  短い時効期間の債権であっても、判決から10年となります。
  裁判外の請求(手紙等での督促)では時効の進行は止まらないことを覚えておきましょう。

【強制執行について】(相談者 50代 男性)
Q. 知人に泣きつかれ300万円を貸しましたが、返してくれないため、訴訟を起こしました。
  先日、こちらの請求どおりの判決が出ましたが、やはりなかなか払ってくれません。

A. 判決に基づいて、相手名義の財産を差し押さえることができます。ただ、差押えの対象を特定
 しなければなりません。
  自宅などの登記簿謄本を取り、本人名義であれば、不動産の差押えが可能です。しかし、住宅
  ローンなどの抵当権がついていればあきらめざるを得ないでしょう。
  相手の勤務先がわかれば、給与債権を差し押さえることができます。しかし、相手方の生活も
 あるので、税金と社会保険料を引いた額の4分の1までしか差押えが出来ません。
  預金については、銀行名だけでなく支店名まで特定しなければ差押えができないという理解が
 一般です。
  家財道具について「動産執行」の申立をし、執行官が相手の自宅に入っても、生活必需品など
 は差し押さえられません。

Q. 相手の財産を調べることはできるでしょうか。
A. 債務者を裁判所に出頭させ、どのような財産があるか開示させる「財産開示手続」を申し立て
 る方法があります。債務者が嘘を言ったりすれば、30万円以下の「過料」という制裁があります
 が、回収に成功するケースは多くはありません。

Q. 法律は不誠実な債務者の味方なのでしょうか。
A. たしかに、債務者の財産開示の制度には不十分な面は否めず、改善の議論はされています。
  ただ、人にお金を貸すときは、「返ってきたら儲けもの」くらいの気持ちで貸すべきだと思います。
  もしくは、担保や保証人を取るなど、万全の対策をしておくべきです。
  いくら払いたくても、お金がなければ払いようがありません。また、自己破産しかないという状態
 になれば、貸金業者の借金だけチャラにし、親族や友人にだけは返済するというわけにはいかな
 くなります。   今後は、人にお金を貸す前にご相談ください。


【取引先の倒産について】
Q. 弊社が取引先に商品を納入した後、代金をもらう前に、取引先が倒産してしまいました。売掛
 金を回収できるでしょうか。

A. 【交渉による商品引き上げ】
  自己破産申立の前であれば、取引先に急行し、取引先の了解を得て、納入した商品を引き上
 げる方法が考えられます。
【動産売買先取特権(さきどりとっけん)に基づく競売申立】
  売買契約書や商品の受領証を裁判所に提出し、納入した商品を執行官に競売してもらい、代
 金を受領する方法です。この方法は自己破産申立後でも可能で、競売に成功すれば優先的に支
 払を受けることができます。
  この申立は、契約書がなければ認められません。また、同じ種類の商品を他社も納入している
 ような場合は、どれを競売してよいかわからないため、競売できません。自社の商品であることを
 特定できるような工夫を事前にしておく必要があります。
【所有権留保による引き上げ】
  もし契約書に、「代金完済まで商品の所有権を売主に留保する」という特約を記載していれば、
 商品の引き上げが可能です。破産申立後なら、破産管財人が引き上げに応じてくれるはずです。
  無断で引き上げを強行すると、自分の物を奪い返しただけであっても窃盗罪に問われる可能性
 がありますので注意が必要です。
【破産手続による配当】
  以上の方法でも回収できない場合は、裁判所に債権届をし、破産管財人弁護士が行う配当に
 期待するしかありません。破産管財人は裁判所から選任され、破産者の財産を管理し、お金に換
 え、債権額に応じて配当を行います。
 この配当はほんのわずかとなり、未回収分は裁判所が「免責」(チャラ)にしてしまいます。
【倒産リスク軽減の制度】
  中小企業基盤整備機構の経営セーフティ共済に加入し、毎月掛金を積み立てておくと、取引先
 の倒産時に、無利息で一定額の貸付を受けることができます。
  また、日本政策金融公庫が、取引企業倒産対応資金の貸付を行っています。

【取引先の営業譲渡】
Q. 弊社は、「A商店」に商品を卸していましたが、知らないうちに経営者が交代し、
  店舗ごと営業譲渡されたようで、現在は「新A商店」という看板です。A商店への
  売掛債権が未回収ですが、新A商店に請求できませんか。

A. 「A商店」と「新A商店」とは別会社ないし別人が経営していますので、単純に
  考えれば請求できないことになりそうです。
   しかし、それでは本件のように債権者が気の毒なことがあるため、商法が手当をして
  います。
   営業を譲り受けた商人が、譲渡人の商号(屋号も同様)を引き続き使用する場合は、
  譲渡人の営業上生じた債務を、譲受人も支払う義務があります(商法17条1項)。
  そうすると、「A商店」が「新A商店」になった場合に、「商号を引き続き使用」したと
  言えるかどうかが問題です。
  微妙な問題ですが、「新」の文字をつけた同様のケースについて最高裁判例があり、
  「新」の文字は債務を承継しない趣旨であり、「商号を引き続き使用」したものとは
  言えないとしています。
  結局、この規定に基づいて請求することは難しそうです。

Q. 新Aのホームページには、「今般、A商店の事業を譲り受け、新A商店として発足する
  ことになりました」と書かれています。これは債務を引き継いだということではありませ
  んか。

A. 「それなら請求できそうです。
   「商号を引き続き使用」しない場合でも、「債務を引き受ける旨の広告」をした場合
  には、営業を譲り受けた者に請求することができます(商法18条1項)。
   このホームページには、「債務を引き受ける」という表現はなく、単に営業譲渡を受け
  たという事実しか書かれていません。
   しかし、最高裁は同様の事案で、債権者がこの広告を見れば、債務が引き受けられたと
  信じるのが普通だと述べ、営業の譲受人に対する請求を認めています。

Q. では訴えたら勝てるんですね。
A. A商店との間の契約書がないと、新Aを訴えても、「そんな契約があったかどうか知ら
  ない」と言われると、売掛債権の立証が大変かもしれません。
  こんな時のためにも、何らかの契約書を交わしておくのが無難です。

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